誕生を記憶する、小さな印章

もともと印章指輪(シグネットリング)は、持ち主を示す印を粘土や蝋に残すためのものでした。一方で、その小さな面には、名前や紋章だけでなく、身を守るための祈りが刻まれることもありました。
古代エジプトの印章指輪には、出産する女性や幼い子どもを災いから守ると信じられていた神「ベス」の姿をあしらったものが残っています。子どもの無事を願い、その思いを小さな指輪に託すという行為には、遠い時代から変わらないものがあるように思います。
誰のものであるかを示すための印章指輪と、ひとりの誕生を記憶するためのベビーリング。残すものは異なっていても、目には見えない大切なものを、かたちにして留める。その点で、これらは静かにつながっています。

リングの上に、空気をふくんだような小さなふくらみをもつ「puff」。地金そのものをやわらかく持ち上げた、静かな存在感のあるかたちです。
もともとベビーリングのために生まれたデザインではありません。けれど、あらためて見つめ直すと、そのやわらかなふくらみは、赤ちゃんの頬や小さな手、あたたかな存在感を自然と思い起こさせることに気づきました。
小さなふくらみが、生まれたばかりのやわらかな時間を、そっと包んでいるようにも見えます。だんだんとベビーリングに相応しいかたちに思えてきたのです。
意味からかたちへとたどり着いた「signet」、かたちのなかに新しい意味を見つけた「puff」。異なる道筋から生まれたふたつのベビーリング。それぞれに、生まれた日の記憶と、これからともに重ねていく時間を託せるようにと、デザインしました。













