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[ Note ] 養殖のわたし

いい人でいる努力をしてきた。いい人のふりをし続けられれば、それは「いい人」と変わらないから──彼女はなかば自分自身に言い聞かせるように心の中でつぶやく。ある漫画の中で印象に残った1コマです。

そこには、“天然”と“養殖”の対比がありました。“天然”の「いい人」は取り繕いなく自然体で人に接し、その存在だけで周囲を和ませる。それを目の当たりにした“養殖”の彼女は、自分の不器用さと偽物くささに痛みを覚えます。どれほど努力を重ねても“天然”の清らかさには届かない気がして、胸の奥がちくりと疼くのです。

けれど、彼女は最後に気づきます。理想の自分がどれだけ遠く感じられても、その理想へ向かって一歩ずつ進んできた事実に変わりはないことを。日々手を動かし続けるからこそ「なろうとする自分」に価値が生まれる。努力の質などは問わず、ましてや才能の有無などはまったく問題ではありません。長い時間積み重ねた圧倒的な量こそが、人をかたちづくるからです。

小さな試行錯誤の積み重ね。その一つひとつが、無数の水滴となってやがて大海をなすように、”わたし”という存在を“養殖”以上のものに育ててくれる。やがて、その蓄積が“養殖”の殻を破り、自身の個性となり、生き様の陰影となっていきます。

もちろん、“天然”の輝きはまぶしいです。けれど、純粋さも作為も、どちらも人間らしさの現れ。そこに至るまでの道のり──選択と試行錯誤の果てにこそ、その人だけの物語が立ち現れるはず。“養殖”のわたしは、漫画のなかで出会った彼女の気づきに何だか救われたような気持ちになりました。

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