マリッジリングを、もっと自由に
2020年9月、新しく生まれ変わったcobaco BRIDAL。
リニューアル前はリングの素材が選べる以外に特には選択肢がありませんでした。けれど、実際にアトリエでお客さまとお話していると、おふたりのこだわりや好みがだんだんと浮かびあがってきます。
このリングはマットな質感にできたりしますか?
こっちのデザインにダイヤを入れることもできますか?
男性でもレディース用の細い方を選んでも大丈夫ですか?
自分たちでも気づかないうちに「これでどうぞ」と決まったかたちをお客さまに押しつけすぎてしまっていたのかもしれません。お客さまの方が自由に発想されていて、私たちが追いつけていないように感じていました。
おなじデザインのペアしか選べないのはどうなんだろう。メンズやレディースなんて名付けはやめにしよう。もっと自由にふたりのかたちを選んでいただくために、私たちも頭をもっと柔らかくしないと。ここが今回のリニューアルの出発点になっています。
ただ、フルオーダーメイドという道は選びませんでした。はじめから理想のかたちがはっきりとイメージできている方ばかりではありません。完全にゼロから自分たちのかたちを練りあげていくのは大変なこと。こちらから差し出した選択肢を検討しているうちに、だんだんと理想のかたちが見えてくる。そういうブランドとお客さまの関係性を目指すことに。
どんなご要望が実際にあったのか。これまでのお客さまとのやりとりを振り返りながら、選べるカスタマイズをひとつひとつ決めていきました。
ひとつのリングから
ふたりがそれぞれ自由に選んでいい。デザインだって違うものを選んでかまわない。けれど、ふたりがそれぞれ選んだものにちゃんとマリッジリングとしてのつながりがあってほしいとも考えていました。
思い浮かんだのは、ひとつの幹から幾重にも枝分かれして、葉がなり、実がなる樹木のイメージ。枝先になる葉や実だけにフォーカスすれば、それぞれにすこしずつかたちも違った個別な存在だけれど、元をたどればひとつの幹から生まれたもの。全体をひとつの樹木として捉えて考えてみます。
もっともシンプルなプレーンデザインを幹にして、そこに何かを加えるような展開を考えていきました。そして、最終的に4つのデザインに落ち着きます。(現在は、さらにひとつ新しいデザインが加わり、5つのデザインで展開しています)
プレーンなデザイン、プレーンリングにハンマーで槌目を入れたデザイン、プレーンリングをすこしカーブさせて曲線を表現したデザイン、プレーンなかたちはそのままに、ふたつの素材をつなぎ合わせたデザイン。
3つはこれまでにも展開してきたデザインを引き継ぎました。けれど、ふたつの素材をつなぎ合わせたデザインは新しくつくらなければなりません。
「ひとりね、いますよ」
プラチナとゴールド。ふたつの素材をつなぎ合わせたデザインは、実はもう何年も前からずっと構想だけはあったもの。つなぎ合わせるだけなら簡単そうにも思えるのですが、そうはいきません。
プラチナとゴールドでは、熱を加えたときに金属が膨張する割合(熱膨張率)が違います。ふたつの素材を溶接してつなぎあわせたところが冷えるときの縮み具合が異なるから、失敗すると接合部がはがれてきたり、歪んだりして、きれいに仕上がりません。技術的に難易度の高い加工なんです。
これまで美しく仕上げることができる職人がなかなか見つからず、ずっとお蔵入りになっていました。もう今回のリニューアルを逃せば、ずっと日の目を浴びず終いになってしまいます。
いろんな伝手をあたってみたけれど、目ぼしい成果は得られず。職人探しは難航していました。ある日、私たちは神戸で長年ジュエリーブランドを展開されている方に相談を持ちかけます。
「近頃はめっきり職人が減ってきていますからね。」後継者不足によってジュエリー職人がどんどん廃業していて、この世界で40年以上も業界を見てこられた方にとっても悩みのタネだといいます。
やはり、そう簡単に見つかるものではありません。この際、あきらめて頭を切りかえた方がいいのかもしれない。すこし沈黙が続いた後、彼が口を開きます。
「ひとりね、いますよ。神戸に腕のいい職人が。」
これが今回のリニューアルを支えてくださった職人さんとの出会いのきっかけでした。
私たちと同じく神戸に工房を構え、20年以上貴金属装身具の世界に身を置く熟練の職人。どんな方だろう?やや緊張しながら工房にお邪魔すると、想像とは正反対のさわやかで笑顔の素敵な方でした。
早速、新作のデザインについてお話しをすると、ふたつ返事で制作いただくことに。いままでの苦労はなんだったんだろうというくらい、ことがうまく回りはじめ、すべてのデザインに実現の目処が立ったのでした。