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[ Note ] 急がず、待つこと。

アトリエでの午前の仕事を終え、ランチを済ませた後、午後の作業に取りかかる前のひととき。一杯のコーヒーを淹れることが日課となっています。

まずは、やかんに水を注ぎ火にかける。お湯が沸くのを待つ合間、コーヒーミルで豆を挽いておきます。ドリッパーにフィルターをセットし、挽きたての豆を静かに移す。沸いたお湯をケトルに移し、ドリッパーの縁から中心に向かってそっとお湯を注ぐと、豊かな香りがふわりと立ち上ります。すこし蒸らした後、またお湯を注いでいきます。急がず、焦らず、ゆっくりと。焦って淹れてしまえば、どうしても苦みが残ります。それを避けるために、時間をかけてじっくりと淹れます。

オンラインで注文した商品は翌日には届いてほしいし、気になったことはすぐに答えが知りたいし、目的地には最短でたどり着きたい。なんでも「速く」「手っ取り早く」が価値を持つ時代です。コーヒーひとつ取ってもできるだけ短い時間で済ませたくなる。けれど、それでは美味しい一杯にありつけません。だから、あえて「手っ取り早く」の誘惑に抗うのです。

ジュエリーのデザインにも通ずるものがあります。気を急いてかたちを決めていくと、どこかぎこちなさが残ってしまうもの。アイデアが浮かんだら、しばらくそのままにして、時間をおいてからもう一度向き合ってみる。それを繰り返しているうちに、少しずつ"かたち”になっていきます。

その昔、書道の先生に「字をきれいに書くコツは何ですか?」と尋ねたことがあります。返ってきた答えは「じっくりと時間をかけて書くこと」。当時は、ただ時間をかければよいのかと、味気なく思いもしました。いまになってようやくその言葉の意味がわかってきたように思います。

急がず、待つこと。
時間をかけることで、物事はより豊かに、深まっていくのだと思います。
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