近鉄奈良駅から奈良公園の方へと10分ほど歩を進めると、春日大社の本殿へと続く参道のはじまりである一之鳥居が姿を現す。本殿までおよそ1.3kmの道のり。進んでいくほどに参拝客の姿もまばらになり、通り抜ける風は冷ややかになり、静けさが増していく。それだけでも十分に霊性を感じる場なのですが、本殿を一周ぐるっと囲う回廊の東外に位置する「御蓋山浮雲峰遙拝所 (みかさやまうきぐものみねようはいじょ)」で思わず息を呑みます。
回廊の外側だからというだけでは説明のつかない、張り詰めた静謐さがそこにはあったのです。つい先ほどまであたりにいたはずの参拝客の話し声はもちろん、その気配までがすっと消え、まるで街の喧騒の只中でノイズキャンセリングしたような「静けさ」だけが残った不思議な場でした。
聴けば、春日大社の裏山でありかつ「神の山」としてこれまで約1300年に渡り深い信仰の対象となってきた「御蓋山(みかさやま)」へ向けて祈りを捧げる空間となっているのだとか。「禁足地」として原則一般参拝者は立ち入ることが許されない御蓋山に最も近づくことができる場所だと言います。
日々さまざまなノイズに晒されて過ごしているからか、神聖な場で出会った静謐な時間/空間は、非常にラグジュアリーな体験に感じられました。