何千年、何万年という途方もない時間をかけて生みだされる天然石。思わずハッとさせられるほど鮮やかな色彩、偶然が織り重なってできる不思議な模様。時には風景のように。時には抽象画のように。どれひとつ同じではない美しさを内包しています。
アトリエの日々を彩るために
外出もままならないコロナ禍の日々。アトリエにいる時間が自然とながくなります。この空間をもっと楽しめるようにしたい。そんな思いがふつふつと湧いてきました。
思い浮かんだのは、アトリエを神戸に移した際にディスプレイ用としてつくろうとしていた鉱物標本。当時はアトリエを整えることに忙殺され実現しませんでしたが、ようやく手がけるタイミングが訪れました。
装身具ではない天然石コクレション「飾る天然石」プロジェクトがはじまります。
3つのまとまりとテーマ
これまで蒐集してきた天然石コレクションをあらためて眺めてみることに。本コレクションに適したものを選んでいきます。大きく3つのまとまりがみえてきました。
風景のように見えるもの、抽象画のように見えるもの。ひとつひとつ成り立ちが違う内包物(インクルージョン)がつくり出す美しい模様たち。テーマは「landscape(風景)」に。「ピクチャーメノウ」のように、まさに”絵になる”天然石をセレクトします。
採掘されたばかりの原石のようなラフなかたちや岩肌のような質感が特徴的な天然石を選びました。テーマは、鉱石を意味する「ore(オール)」に。切り立つ山がゴツゴツとした岩肌をのぞかせているようにみえる「結晶メノウ」のような石をセレクトします。
イエローにグリーン、ブルー…色彩豊かな天然石が存在します。たとえば原色のようなイエローカラーの「リーフメノウ」。個性的なカラーに注目したまとまりとして「hue(=色彩)」というテーマを与えることにしました。
アンティークの鉱物標本を目指して
デザインソースは、100年以上は経っているだろうフランスの学校で使われていた鉱物標本。とても希少なもので実際に手に入れることができなかったけれど、こちらをもとに仕立ててみようと考えました。
まずは、ガラス容器。世の中にあるガラス瓶からピンとくるかたちのものを探し求めていくなかで、ひとつのガラス瓶が目にとまります。種子瓶という種子を入れるためのガラス容器。そもそもは化学分野の実験器具でしたが、近ごろではコーヒー豆をつめたり、インテリア雑貨としても使われています。
ただ、ひとつ問題が。それはウエストの幅でした。そもそも種子を入れることを前提としたつくりになっているため、ウエストが細く、飾ることができる天然石の大きさにかなり制限が出てしまうのです。さまざまなガラスメーカーが製作している種子瓶を試してみたけれど、ウエストの問題をクリアできるものに出会うことはできませんでした。なければ、つくるしかない。こうして、天然石を飾ることに特化したオリジナルのガラス容器をつくることになります。
すべてのパーツに職人の技
ガラス容器のメーカーにコンタクトをとるものの、なかなか条件の合うところがなく断られ続けました。そんななか、職人が手吹きでひとつひとつガラス製品を製作している工場と出会います。
創業明治45年、百年以上の歴史がある小泉硝子製作所。耐熱性・耐薬品性に優れているホウケイ酸ガラスを原料に、主に理化学器具やキッチン用品をつくり続けているガラスメーカーです。
熔解炉などで高温溶融されたガラスを吹き竿と呼ばれる金属管の端に巻きとって、竿の反対側から息を吹きこんで成形します。
「吹きガラス」と呼ばれ、古くは紀元前1世紀半ばに東地中海沿岸のフェニキア人によって発明された技法。製法は古代ローマの時代からほとんど変わっていないのだそう。
打ち合わせで工場を訪れた際に確認した試作品。手吹きだからか、ひとつひとつに表情があるように感じられます。もちろん、ウエスト幅も広くなり、大きな天然石も入るように。想像以上の出来に仕上がりました。
天然石を支える真鍮パーツは大阪の町工場に依頼。手元にあるのは、私たちが手書きした完成イメージのイラストだけ。手探りで試作を重ねます。
いちばんの課題は、天然石のサイズやかたちがバラバラだということ。パーツをV字にしたり、ドーナツ状のパーツを使った留め方にしたり。さまざまなかたち、大きさの石を留めることができないか試していきました。工場の職人の方も「こんなものを依頼されたのははじめて」と面白がってくださり、私たちからの無理難題に根気強く付き合ってくださいました。
最後につや消し加工を施して完成。真鍮(しんちゅう)は経年変化する金属。時間とともに朽ちた印象が増し、本当の意味でアンティークな逸品に育っていきます。
▼Collection|飾る天然石
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